瑠璃から連絡を受けた圭は仕事が終わった後、瑠璃のことをカフェで待っていると瑠璃が「忙しいのにゴメンね」と言いながらイスに座った。
そしてコーヒーを注文して到着するのを待ってから話しはじめた。
「今、マンションにいないの?」
「え?」
「ここに来る前に寄ってみたら、キレイに片づけられてたから」
「他の場所で暮らしてる」
隠す必要はないと思い圭は答えた。
「…え? どこ?」
「隆の家」
「どうして?」
瑠璃は少し驚いていた。
「俺にはその方があってるから」
「あってるって…どういう意味?」
圭が過去にどのような暮らしをしていたのか瑠璃は知らないためますます理解ができないでいた。
「高校時代の俺は6帖一間の部屋でひとり暮らししてた。両親はいないし、家族もいない。親戚の家に引き取られる話も出てたけど、受かってた高校に通えなくなるからひとりで暮らす方を選んだ」
「そうだったの。私、圭の妻なのに何も知らなかったのね」
そう言いながら瑠璃は目の前のコーヒーを飲んだ。
「瑠璃が悪いわけじゃないよ。俺が話さなかっただけだから。それで今日は何?」
「この前のことが気になったから。圭、私と別れること考えてないわよね?」
少し不安そうな表情を見せる瑠璃を目の前にした圭は何も言えなくなったが、このままだと何も変わらない、そう思い少しだけ距離を置きたいことは伝えることにした。
「俺たち…しばらく離れていよう」
「…え?」
瑠璃は驚いた表情を見せた。
「日本に帰国してから俺たちは別々に暮らしてるけど、改めてもう一度お互いのこれからの人生について考える時間がほしい」
「圭!」
「瑠璃が悪いわけじゃない。俺のわがままなんだ」
「もしかして…圭がそう思うようになったのは…ひかるに再会したから?」
「え?」
圭は瑠璃を見た。
「そうなのね。…圭の心の中には」
その瑠璃の言葉を聞いた圭はひかるを巻き込みたくないと思った。
「ひかるは関係ない。俺自身の問題なんだ。この10年の間、俺は瑠璃や瑠璃の両親に甘えてた。瑠璃と結婚したのなら、柳瀬の援助を受けるべきではなかった、柳瀬の籍に入るべきじゃなかった」
「だったら…私が柳瀬の家を出る、両親と縁を切るわ」
そう言いながら瑠璃は目にうっすら涙をためた。
「それは…瑠璃の両親が許さないよ」
「少し距離を置いて冷静になろう。俺もこれからどうすればいいのか真剣に自分の人生と向き合う。だから瑠璃も考えてほしい」
「わかったわ」
少しして瑠璃は帰っていき、圭は「ふぅ」と大きく息を吐いてから目の前にある水を一気に飲み干したのだった。
店を出て夜の道を歩いていた圭の携帯がなり着信相手を見るとちあきだった。
「もしもし」
「圭、今から飲みに行かない?」
「え?」
「たまにはふたりで飲もう。もしかして相手は私じゃ不満?」
「何、言ってるんだよ。ちょうど飲みたい気分だった。どこに行けばいい?」
圭はちあきからの誘いにホッとするのだった。
そんなちあきが指定したのは圭とひかるが再会したバーだった。
「圭!」
先に待っていた圭のところへちあきが歩いてきた。
「急にゴメン」
「全然。ビールでいい?」
「うん、ありがとう」
「すみません、ここビール追加で」
「かしこまいりました」
ちあきのビールが到着しふたりは乾杯した。
「圭、何かあった?」
「瑠璃に会ってた」
「やっぱりねー」
「ん?」
「電話で話してた時の声がなんとなく違う感じがしたから」
「そっか」
圭は苦笑した。
「今日誘ったのは、聞きたことがあったの。隆の家で暮らす本当の理由は何?」
「…え?」
「隆に聞いてもあいつの好きにさせてやれっていうだけで何も教えてくれないの。圭、この10年間幸せだった?」
ちあきの言葉に圭は何も答えることができなかった。
「私…気づいちゃったんだよね。ひかるを見る圭の表情」
圭は少しドキっとした。
「10年前、圭は私たちに何の相談もなしに瑠璃と結婚する、ロンドンに行く。そう言って1週間後にいなくなった。そんな圭のことが許せなかった」
ちあきの話を圭は黙ったまま聞いていた。
「圭のそばにはいつもひかるがいたでしょ。私が嫉妬するくらいひかると仲良かったのに、瑠璃と付き合いはじめて、それで結婚するって言われて、私たちっていったい圭のなんだったんだろうって思ったんだよね。 でも、再会してひかるを見る圭の表情が何も変わってないことに気づいて、圭のこと許そうって思ったの」
ちあきは自分の気持ちに気づいていた―そう思いながら圭はビールを飲んだ。
「圭、司のことがきになるんでしょ?」
「…え?」
「司とひかるが付き合おうとしてるって思ってない?」
圭は苦笑した。
「もし司とひかるが付き合ったとしても今の俺には…引き止める資格はない」
「それってさ、瑠璃と結婚してるから? あーもう! 結婚がなによ! 結婚してたら他の人を好きになったらいけないって誰が決めたのよ!」
「ちあき飲みすぎだよ」
「うるさい! 飲みたくもなるわよ! ひかるねあの頃に戻りたいって私の前で泣いたのよ」
「…え?」
圭はちあきの言葉に驚くのだった。
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