行き先も決めずマンションで準備をしていた裕史は、携帯に保存されている晶と一緒に撮った写真を懐かしそうな表情で眺めていた。
その写真の中で裕史はあることに気づいていた。
それは晶の笑った顔。
いつもどんな時も自分が社長の座を解雇された時も笑ってくれていた。
―もう一度晶の笑った顔がみたい
そう強く心に感じた裕史は晶がいる店に連絡をいれてみた。
が、晶はすでにいないという返事が返ってきたため裕史は驚き、誰かに連絡いれはじめ、カフェでその相手絵を待っていた裕史の元に英介が現れた。
「お忙しいところすみません」
「いいえ。で、お話というのは?」
「あの…彼女がいる場所を教えていただけないでしょうか?」
「…え?」
英介は少し驚いていた。
「もしかしたら新堂さんなら居場所をご存じかと」
「彼女はあなたに行き先を告げていかなかったということですか?」
「いえ。行き先は知っています」
「だったら私に聞く必要はないのでは」
「それが…連絡をいれてみたらそこにはもういないと言われました」
「…え?」
英介も初めて聞く話であり驚いていた。
「その様子だと新堂さんもご存じないということですね」
「はい」
「…そうですか」
裕史は少し微笑みながらコーヒーを飲んだ。
「彼女がどこにいるか居場所を知りたい理由を聞いてもいいですか?」
「会いたいからです。というよりただ彼女の笑った顔がみたい。私は出会った時から彼女の笑った顔にずっと支え続けてこられたことを離れてみて改めて気づきました。今の私には彼女が必要です。彼女がそばにいなければ生きている意味がない。遅すぎるって怒られるかもしれませんが」
そう言いながら裕史は苦笑し、その表情を見た英介はなんとなく晶がなぜ裕史に惹かれていったのかわかるような気がしていた。
「たしかに怒るかもしれませんね。なかなか手ごわいかもしれませんよ」
「新堂さんでもそう思います?」
「はい」
ふたりは笑いあうのだった。
晶がどこにいるのか居場所がわからなくなった裕史は晶と過ごした時間を思い出すかのように思い出の場所をまわりながら、最後にたどり着いたのは東京タワーの下だった。
「どこにいったんだよ、晶」
そうつぶやくと携帯がなり着信相手を確認せず裕史は携帯に出た。
「もしもし」
「上まであがってきてよ」
携帯から聞こえてきたのは晶の声であり裕史は驚き、声がでなかった。